溶連菌感染症の話

 溶連菌とは細菌と呼ばれる、自然界に広く存在する細胞核を持たない微生物の一種です。細菌とは人の体内に常在する無害なものから、ひとに病原性を示すもの、その病原性を示すものでも病原性の弱いものから強いものまで極めて多数のものが知られています。溶連菌は人に病原性を示す細菌のうちで頻度が多く病原性も強いものとされています。

どのような症状が見られるのでしょうか。

 多くは気道に感染し上気道炎を起こします。特に咽頭炎の症状が強く、強い喉の痛みは溶連菌感染の特徴とも言えます。咽頭発赤が著明なことも診断の根拠の一つになります。舌が赤くなり、舌乳頭が肥大し苺のようになる苺舌がみられることもあります。苺舌は溶連菌感染以外にも見られますから、それだけから溶連菌感染は診断できません。溶連菌の中でもいくつかの亜型があり、軽い咽頭炎で自然治癒するものから、進行性の経過をとり、肺炎、膿胸、敗血症、髄膜炎にまで広がってしまうものがあります。溶連菌の中に発赤毒素を出す種類があります。この毒素が血液に入りますと、全身に赤い発疹が出現します。これが猩紅熱と呼ばれる疾患です。溶連菌が皮膚の傷に入り化膿巣を作りますと、周囲に大きく広がり腫脹した皮膚病変を作ります。これは蜂巣織炎(蜂窩織炎)と呼ばれる疾患です。皮膚病巣を作った溶連菌が発赤毒素を分泌しますと、病変部が赤くなります。これが丹毒と言われる疾患です。

溶連菌感染特有の合併症。

 溶連菌感染症にはリウマチ熱、急性糸球体腎炎と呼ばれる特有の合併症があります。溶連菌感染が治癒した数週間後に発症します。溶連菌に対する抗体が産生されるようになると、溶連菌感染は抑えられるのですが、この抗体が時に心臓や関節、腎臓に反応してしまうことがあります。発熱、関節炎、心臓内膜炎を起こしてくるのがリウマチ熱、血尿、浮腫、高血圧を起こしてくるのが急性糸球体腎炎です。急性糸球体腎炎は自然治癒し、慢性に移行することはありません。リウマチ熱の関節炎も自然治癒し慢性化することはありません。問題はリウマチ熱の心臓内膜炎です。炎症は自然治癒するのですが心臓内膜の一部である僧房弁に瘢痕を残す結果、弁の変型をきたし弁膜症といわれる慢性の心臓病になります。リウマチ熱や急性糸球体腎炎は溶連菌感染を治療しないときに起こる合併症で、抗生剤の投与が行われていれば見られない合併症です。日本では最近リウマチ熱や急性糸球体腎炎を見ることはほとんどなくなりました。抗生剤の使われ過ぎの是非が論じられていますが、少しでも溶連菌感染の可能性があれば、抗生剤は積極的に使わなければなりません。

溶連菌感染症の治療。

 溶連菌感染症には抗生剤の投与が必要です。抗生剤のない時代の溶連菌感染症は、死に至る怖い病気とされていましたが、抗生剤の登場により事情は一変しました。今では普通の風邪と考えてかまいません。しかし抗生剤の服用は一定期間必要です。ペニシリン系、セフェム系の抗生剤ですと10日間の服用が必要です。セフェム系の抗生剤がペニシリン系のものより効果が確実だとされています。また最近開発されたジスロマックは3日間でよいことが知られています。感染力は比較的強い病原体ですが、抗生剤の投与が開始されますと、すぐに感染力がなくなります。症状がないにもかかわらず咽頭に溶連菌を持つ人を保菌者と呼びます。幼稚園、小学校で調べると10〜20%程度の保菌者が見つかります。また溶連菌感染患者家族を検査しますと多くの保菌者が見つかります。症状のない保菌者がリウマチ熱、急性糸球体腎炎になることはありません。除菌目的で抗性剤を投与しても、一時的に菌は消えますがまたいつの間にか保菌者になっています。10年前くらいは積極的に保菌者の除菌を行っていましたが、意味がないとして最近では保菌者の除菌は行わなくなりました。

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